Sunday, January 11, 2009

日記 2009/01/11

・文學界2008/10月号で、芥川賞にノミネートされている田中慎弥「神様のいない日本シリーズ」を読む。部屋に閉じこもっている息子へ向けて語る、父親のモノローグという設定の作品で、タイトルにある通り随所に日本シリーズ、特に西鉄/西武ライオンズの2度の3連敗からの4連勝という奇跡的な優勝のエピソードを参照しながら、そしてベケットの「ゴドーを待ちながら」を参照しながら、しかもそれらの参照の接続がとてもスムーズであるという、非常にリーダブルな寡作だった。父親の語りがいつしかその父親の父親の描写にずれていったり、ベケットの戯曲の引用が入ったりと、いわゆる語りの横滑りのようなことが、祖父-父-息子というメタ方向にも起こっており、しかし主人公、というか唯一の実在する人物である父親が、彼以外の人物と直接コミュニケーションをとることができないという、極めてベケット的なテーゼの、しかし現代的な表現はなかなかに読み応えがあった。読みはじめた時には、割と普通の作品なのかなという印象だったが、読後感はなかなかにすばらしい。

・ベケットと言えば、最近『マロウンは死ぬ』を読んで面白かったので『モロイ』を読み返そうかと思って探したら無い。そういえば友人に貸す貸さないという話をしていたことを思い出し、電話で確認するとどうやら借りていない、ということらしい。結局普段使っていない本棚ではない棚から出てきたのだが、この見つからないものは自分の物とは言えないという、極めてベケット的な状況にあったのだなぁ、などと馬鹿みたいなことを考えたりした。

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